紅い世界。
もしかしてあれが神隠しの……。
05
「あまりないな」
あれから、数日。
特におかしいこともなく、日常は過ぎていった。
匂い袋のお陰だろうか?
ともかく今は何もおかしいことはない。まるであれは夢だったかのように…。だが、現に匂い袋だけは手元にある。今も変わらず懐かしい匂いを漂わせて。
この数日は図書館に通いつめているが、
近藤が言っていた通り、神隠しの話しはまるでなかった。伝記としてや、昔話としてかかれているだけで、落ちも何もない。
「…皇?」
ふと背後から名前を呼ばれて振り返ると、そこには中学の同級生、芳川椿(よしかわつばき)がいた。
長く真っ直ぐな黒い髪に、大きな瞳。
小柄だが、正確は稟としてしっかり者だ。
「椿、久しぶりだな」
「うん、しばらくこっちに居なかったから…。宿題?」
「いや、」
隣の席に腰をおろした椿は、どれどれ、と広げていた本を覗きこんだ。
勿論隠す暇もなく、慌てて隠してもおかしいと思ったのでそのままにしてしまったが、内容は残念ながら女の子が好みそうな話しではない。
「怪異について?」
「ああ」
「ここにはないと思うよ…」
椿はそう小さな声で言うと、続けて尋ねる。
「何かあったの?」
「あー…」
言いにくそうに、皇が言葉を濁すと、椿は持っていた鞄の中からルーズリーフの紙を一枚取り出し、胸に挿していたボールペンで何かを書きはじめた。
「…!」
椿が文字を書き終え、その紙をすっと皇の方へと差し出す。その内容は、驚愕せざるをえないものだった。
(私も、怪異に遭った)
椿を見ると、彼女も皇のほうを見ていた。
ふっくらとした唇を軽く噛んで、眉を寄せている姿もなかなか可愛いが、その表情をゆっくり眺める訳もなく皇は携帯ストラップに付けていた匂い袋を椿に見せるように側に置いた。
それを見て今度は彼女が驚いた表情をみせ、再び鞄の中をあさり、何かを掴んだ。
掴んだ手の平を開くと、そこには皇と同じ匂い袋があった。
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