幻の詩[うた] 紡ぐ故[ゆえ]
03
静まりかえった離れの縁側で、皇は夜風に辺りながら星を眺めた。
神隠しの謎。
確かにそれは気になるものである。
しかし図書館にも伝記としてしか残っておらず、事件としては一切残っていない。
神隠しで消えた者は、一体何処へ行ったのだろう。
「皇、眠くないの?」
「翼か、驚かせんなよ」
「わるい」
お互い軽く笑いながら、翼は皇の隣に座る。
手には氷がたっぷりはいった麦茶のグラスを二つ持っている。
その一つを皇に差し出すと、翼は夜の空に輝く月を眺めた。
「皇、帰っていいんだぞ」
「は?」
「……お前はまだ帰れるんだ。無理してあいつらに付き合わなくていい」
「何言ってるんだよ」
翼は一度だけ皇の方を向くと、力無く微笑んだ。
「逃げろ」
その一言が、闇に包まれた空を紅く染め上げた。
風は生暖かい。
隣にいたはずの翼は、手に持ったグラスごと消えていた。
空は、紅い。
紅くて、滴りそうだ。
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